2026年2月11日、FIRSTは2026年のCVE公開件数を59,427件と予測した。これは同組織が2024年11月に公表した2025年予測45,505件をさらに上回る水準であり、CVEエコシステムが「年間5万件超」を前提に再設計される段階に入ったことを示すシグナルである。本稿は、件数増加それ自体ではなく、脆弱性管理プロセスのどこが先に破綻し、どの機能を自動化しなければ運用不能になるのかを整理する。

2026年予測59,427件が意味するもの

FIRSTの2026年予測59,427件は、単なる増加トレンドの延長ではない。従来の「重大度ベースで月次棚卸しする」運用は、件数が臨界点を超えると処理待ちを恒常化させ、修正優先順位の意思決定を遅延させる構造を持つ。特にグローバル企業では、プロダクト単位・環境単位・資産単位で同一CVEの影響評価が分岐するため、件数増加はそのまま評価ジョブの多重化を引き起こす。

2026年の論点は「何件見つかるか」ではなく、「どの時点で手動評価がボトルネック化するか」である。59,427件という予測値は、脆弱性管理をSOC的な常時運用へ移行させる転換点として読むべきである。

なぜ従来プロセスは破綻するのか

2025年3月19日にNVDが公表した運用更新では、2024年のCVE入力増加率が32%に達したこと、そして蓄積分の処理のために機械学習活用を含む自動化拡張が必要であることが示されている。すなわち、中央データ基盤側ですでに処理能力問題が顕在化している。

この状況下で、企業内の従来プロセスは次の順で劣化しやすい。

  • 受付: 監視対象の増加で、重複チケットとノイズ通知が急増する。
  • 評価: CVSSだけでは修正優先度を決められず、資産重要度・公開エクスプロイト有無・露出面を突合する手作業が膨張する。
  • 実装: パッチ適用判定からメンテナンス調整までが人手依存のため、SLAを恒常的に超過する。

件数が5万件規模に達すると、問題の本質は「検知精度」ではなく「意思決定スループット」に移るのである。

構造的転換: AIトリアージと自動パッチ適用

ここで必要なのは、検知ツールの追加ではなく運用レイヤの再設計である。実務上は少なくとも次の二層自動化が前提となる。

  • AIトリアージ層: CVE、資産台帳、SBOM、外部脅威情報を横断し、修正優先順位を機械的に再計算する。人間は「例外承認」と「ビジネス影響判断」に集中する。
  • 自動適用層: 低リスク更新はリング配信で自動展開し、失敗時は即時ロールバックする。高リスク更新は事前検証結果を添えて承認待ちに回す。

この二層化により、担当者は全件レビューから外れ、ポリシー設計者へ役割を移せる。逆に言えば、この転換がない組織は件数増加に比例して未修正残高を積み上げる。

2026年に再定義すべきKPI

件数増加局面では、従来の「検知件数」「月次クローズ率」は経営判断に寄与しにくい。2026年は、次の運用品質KPIへ置き換えるべきである。

  • 初動判定時間(Triage Lead Time): 新規CVE取り込みから優先度確定までの時間。
  • 自動修正率(Automated Remediation Rate): 承認不要で閉じた修正の割合。
  • 例外滞留日数(Exception Aging): 未修正を許容した例外の平均滞留日数。
  • 再発率(Reopen / Regression Rate): パッチ適用後に再度脆弱状態へ戻る割合。

59,427件という予測値は恐怖を煽る数字ではない。脆弱性管理を「人が回す業務」から「機械が回し人が統治するシステム」へ移すべき期限を示す、具体的な運用要件である。

FAQ

Q1. 59,427件は確定値なのか。

確定値ではなく、FIRSTが2026年2月11日に公表した予測値である。ただし、同組織は2025年についても事前予測を公開しており、年次計画の入力値としては十分に実務的である。

Q2. CVSSだけで優先順位を決める運用はもう難しいのか。

難しい。件数増加局面では、CVSSに加えて資産重要度、インターネット露出、既知の悪用情報、代替策有無を同時に評価しないと修正順序が現実のリスクと乖離するためである。

Q3. 自動パッチ適用は本番障害リスクが高くないか。

一律自動化は危険である。リング配信、カナリア、即時ロールバック、事前適用テストを組み合わせ、低リスク領域から段階導入する設計が前提となる。

Q4. 2026年中に最優先で着手すべきことは何か。

脆弱性データと資産データの統合である。データが分断されたままではAIトリアージの精度が上がらず、結果として人手運用を脱却できない。

参考文献