2026年のクラウドネイティブ市場では、Kubernetesが「コンテナ基盤」から「AI運用基盤」へと役割を変えた局面に入った。CNCFが2026年1月20日に公表した年次調査では、生成AIモデルをホストする組織の66%がKubernetes上で推論ワークロードの一部または全部を運用している。これはKubernetesの成熟度が、AI導入の実験段階を超えて本番標準へ移行したことを示す指標である。

同時に、Kubernetes v1.34(2025年8月27日)とv1.35(2025年12月17日-29日公開情報)では、AI/HPC向けバッチ運用に直結するスケジューリング機能が拡張された。さらに、エッジ側ではK3sやKubeEdgeのような軽量・分散構成が実装選択肢として定着しつつある。本稿は、この3つの流れがなぜ同時に進むのかを、技術実装の観点から整理する。

AIがKubernetes採用を再定義した2026年の転換点

2026年1月20日公開のCNCF Annual Cloud Native Surveyは、KubernetesがAIインフラにおける「事実上の標準OS」へ移行したことを示した。主要数値は、(1) コンテナ利用者の82%がKubernetesを本番運用、(2) 生成AIを運用する組織の66%がKubernetesで推論を実行、の2点である。これは「Kubernetesを採用するか」の議論が終わり、「Kubernetes上でAIをどう運用設計するか」へ意思決定軸が移ったことを意味する。

注目すべきは、同調査でAI運用の頻度がまだ慎重である点である。多くの企業はモデルを毎日更新するより、既存モデルの安定推論と運用効率を優先している。したがって2026年の競争優位は、モデル性能そのものより、推論の可用性、コスト、再現性をKubernetesで標準化できるかに依存する。

Kubernetes 1.34/1.35で進んだAIバッチ実行の実装可能性

Kubernetes v1.34では、GPU/TPU/NICなどを扱うDynamic Resource Allocation(DRA)APIが安定化し、デバイス資源の宣言と割り当てを標準APIで扱えるようになった。これはAIワークロードで課題になりやすい「アクセラレータ資源の取り回し」を、クラスタ運用ルールに組み込みやすくする更新である。

続くv1.35では、Workload APIとPodGroupを軸にしたgang scheduling(all-or-nothing配置)が導入された。複数Podが揃わないと成立しない分散学習や並列バッチで、部分スケジューリングによるデッドロックと資源遊休を抑制できる。さらにopportunistic batchingによって同質Pod群のスケジューリング効率も改善され、AI推論・学習ジョブの待ち行列設計が実務的に扱いやすくなった。

要点は、2026年のKubernetesが単なる汎用オーケストレータではなく、AIバッチの単位(workload/group)で制御する方向へ設計原則を拡張したことである。

エッジ配備で求められる“小規模クラスタ×中央統制”の両立

エッジ側の要件は、クラウド中心の大規模クラスタとは異なる。現場拠点では、低遅延、断続的ネットワーク、限られた計算資源、無人運用が前提になりやすい。この条件では、K3sのような軽量ディストリビューション(単一バイナリ、低メモリ要件)を拠点単位で配備し、中央側でGitOpsまたはマルチクラスタ管理を行う構成が現実的である。

KubeEdgeのアーキテクチャは、この「中央と現場の分離統治」を具体化する。CloudCoreとEdgeCoreを分離し、エッジノードをクラウド側Kubernetes管理面に統合することで、配置・更新・監視を統制しながらローカル処理を維持できる。結果として、推論要求をエッジで即時処理し、学習や集約分析だけをクラウドへ戻すハイブリッド運用が成立する。

エッジ比率については、Gartnerが2018年10月3日に「2025年までに企業生成データの75%が従来型データセンター/クラウド外で作成・処理される」と予測している。この推計の初出は2025年目標であるため、本稿の「2027年に向けて75%級へ収斂」という見立ては、同方向の延長線として読む必要がある。

実装指針: GenAI時代のKubernetes基盤をどう設計するか

実装上の優先順位は、次の4点に集約される。

  • 第一に、推論系と学習系を別SLOで分離する。推論はレイテンシと可用性、学習はスループットとコストで最適化する。
  • 第二に、v1.34以降のDRAを前提にGPU資源の宣言を標準化する。運用ルールを人手ではなくAPIに寄せる。
  • 第三に、v1.35のgang schedulingを使い、分散バッチの部分起動を抑制する。ジョブ失敗時の再試行戦略もPod単位ではなくgroup単位で設計する。
  • 第四に、エッジはK3s等の小規模クラスタで局所推論を行い、中央クラスタはモデル供給・観測・ポリシー適用に集中させる。

この設計は、AI導入の初期段階でも段階的に導入できる。重要なのは「モデルを置く場所」より「運用責任の境界をどこで切るか」である。Kubernetesは2026年時点で、その境界設計を技術的に表現できる水準へ到達したと言える。

FAQ

66%という数値は何を示しているか。

CNCFの2026年1月20日公開データでは、「生成AIモデルをホストする組織のうち、66%がKubernetesで推論ワークロードの一部または全部を運用している」ことを示す。つまりKubernetesはAI基盤の実験用途ではなく、本番運用の選択肢として広く使われている。

Kubernetes v1.35のgang schedulingはどの場面で有効か。

分散学習やHPCのように、複数Podが同時確保できないとジョブが成立しない場面で有効である。all-or-nothingの配置により、部分起動による資源ロスと待ち合わせデッドロックを抑制できる。

エッジでKubernetesを使うなら通常版と軽量版のどちらがよいか。

拠点のCPU/メモリ制約、運用要員、ネットワーク品質に依存する。無人拠点や小規模機器ではK3sが有利で、中央統制やデバイス連携まで必要ならKubeEdge構成が適することが多い。

「75%がエッジ処理」という予測は2027年の確定値か。

公開確認できるGartnerの原典は2018年の「2025年までに75%」という予測である。したがって2027年値は、公開されている別予測や市場進展を踏まえた延長シナリオとして扱うのが妥当である。

参考文献