2025年は、Agentic AIの期待が実装現場の制約に衝突した転換点である。2026年は、デモ価値ではなくP&L寄与を問う「幻滅期的な選別局面」に入る可能性が高い。本稿では、GartnerとMcKinseyの公開データを基に、ROI立証圧力下での実装パラダイムを整理する。

2026年「幻滅期入り」をどう定義するか

本稿でいう幻滅期とは、期待の後退そのものではなく、投資継続の条件が「機能デモ」から「財務成果の証明」に切り替わる局面を指す。Gartnerは2025年6月25日、2027年末までにAgentic AIプロジェクトの40%以上が中止されると予測し、主因としてコスト上昇・価値の不明確性・リスク統制不足を挙げた。また同リリースでは、現状の提案の多くがROIを十分に示せていないと明示している。これらは、2026年に案件評価軸が厳格化する前提を与える。

補助線として、同リリースでは「2028年までに日常業務判断の15%が自律化」「2028年までにエンタープライズソフトの33%がAgentic AIを含む」との予測も示される。すなわち市場は消失ではなく、粗い実験の淘汰と、実装品質・運用能力の再編に向かう公算が高い。

88%利用でも、スケール到達は約3分の1

McKinsey「The state of AI in 2025」(2025年11月5日)は、AI利用企業が88%に到達した一方で、約3分の2は依然として実験・パイロット段階にあり、全社スケールを開始できているのは約3分の1と報告する。さらに、Agentic AIについては62%が実験、23%がスケール段階とされ、導入率と事業実装率のギャップが明確である。

同調査では、企業全体EBITへの寄与を報告した回答は39%にとどまり、その多くは寄与率5%未満である。つまり「使っている」ことと「P&Lに効いている」ことは別問題であり、2026年の経営要求は利用率よりもユニットエコノミクスに向かう。

「座席数課金崩壊後」の収益モデル転換

Agentic AIの経済設計は、席数(per-seat)中心から消費・成果連動へ移行している。Salesforce Agentforceは会話単位課金(1会話あたり2米ドル)を前面に置き、Copilot Studioは2024年12月導入の従量課金モデルで2025年1月時点に1メッセージ0.01米ドルを提示した。OpenAI API価格もトークン・ツール利用の従量体系であり、AI機能の原価管理は席数ではなく処理量と業務フロー設計に依存する。

この変化は、予算管理の主語を「ユーザー数」から「処理イベント」「自律タスク完了率」「例外処理コスト」に切り替える。結果として、購買・情シス・事業部が共通で見るべきKPIは、アクティブ席数ではなく、案件単位の粗利改善率、手戻り率、SLA達成率になる。

ROI圧力下で有効な実装パターン

第1に、ユースケースを「意思決定」「定型自動化」「検索補助」に分解し、Agentを当てる範囲を限定することである。Gartnerが示す通り、Agentを使うべきでない課題にまで適用するとコストとリスクだけが増える。第2に、PoCの成功条件を「精度」だけでなく「単位業務あたり総コスト」「人手介入回数」「障害時復旧時間」で定義する。第3に、既存業務をそのまま自動化せず、ワークフローを再設計する。McKinseyでも高成果企業の差分としてワークフロー再設計が強く示されている。

実務上は、90日で評価可能な3層KPIを置くとよい。先行KPIは処理量あたりコスト、運用KPIは成功率と例外率、財務KPIは粗利率・回収期間である。これにより、2026年の投資継続判断を「期待値」ではなく実測値で行える。

2026年の意思決定フレーム

2026年の焦点は「Agentを導入するか」ではなく、「どの業務単位で、どの課金単位で、どの速度で黒字化できるか」である。幻滅期は悲観局面ではなく、実装能力の差が財務差に変わる局面である。したがって企業は、席数拡大を追うより、ユースケースごとのP&L証明を標準プロセス化するべきである。

FAQ

Q1. 「幻滅期入り」は市場縮小を意味するのか?

必ずしも市場縮小ではない。2025年6月25日のGartnerリリースは中止案件の増加を示す一方、2028年に向けた自律判断・組み込み拡大予測も示しており、実態は淘汰と再編である。

Q2. 88%利用なのに、なぜ成果が限定的なのか?

McKinsey 2025調査では、利用拡大と全社スケールは別段階であり、多くが実験段階に留まるためである。導入率は高くても、業務再設計と運用統制が未整備だとEBIT寄与に結びつきにくい。

Q3. 「座席数課金崩壊後」とは何を指すか?

席数課金が消えるという意味ではなく、主要ベンダーで会話単位・メッセージ単位・トークン単位の従量設計が前面化し、費用最適化の主対象が席数から処理量・フロー設計へ移ることを指す。

Q4. まず何から着手すべきか?

最初に、1業務フローを選び「処理単価」「例外率」「人手介入工数」を計測する。次に、Agent適用範囲を意思決定点に限定し、90日で粗利改善または回収期間短縮を検証する設計にするのが現実的である。

参考文献