AIの進歩を阻む真のボトルネックは、アルゴリズムでもデータでもない。メモリである。2024年後半から始まったグローバルDRAM不足は、2026年に入り危機的水準に達した。DRAM価格は2025年に172%上昇し、2026年にはさらに70%の上昇が見込まれている。データセンターが世界のメモリ生産量の70%を飲み込む中、PC、スマートフォン、自動車——あらゆる産業が影響を受けている。本稿では、AIメモリ危機の構造的原因と、半導体地政学の新局面を分析する。

何が起きているのか ― DRAM不足の全体像

2024年後半から顕在化したグローバルメモリ供給不足は、半導体メモリ市場における供給制約と価格高騰の連鎖である。TrendForceのデータによれば、2026年に世界で生産されるメモリの最大70%がデータセンターによって消費される。主要メモリメーカーのMicronとSK Hynixは、2026年分の生産能力をすでに完売している。

価格への影響は劇的である。DRAM価格は2025年を通じて172%上昇した。2025年第4四半期だけで約50%の値上がりを記録し、TrendForceは2026年にさらに70%の上昇を予測している。Samsungは価格構造の見直しのためDDR5モジュールの新規受注を一時停止し、Micronはコンシューマー向けブランド「Crucial」からの撤退を発表した。

業界専門家は、この不足が少なくとも2026年から2027年にかけて継続すると見ている。世界の3大DRAMメーカー(Samsung、Micron、SK Hynix)は既存施設の拡張や新工場の建設を進めているが、この3社で世界供給の90%を占める寡占構造のため、新規生産が供給不足を目に見えて改善するのは2028年以降になるとTrendForceのAvril Wu氏は指摘する。

需要の爆発 ― なぜAIがメモリを食い尽くすのか

メモリ需要を牽引しているのは、大規模言語モデル(LLM)の訓練と推論に必要な高帯域幅メモリ(HBM)である。LLMのパラメータ数が増大するにつれ、GPUに搭載されるHBMの容量要件も指数関数的に拡大している。

規模感を把握するために一つの数字を示す。OpenAIの「Stargate」AIインフラプロジェクトだけで、月間約90万枚のウェーハを必要とし、これは全世界のDRAM生産量の最大40%に相当する。一社のプロジェクトが世界生産の4割を要求する――これがAIメモリ危機の本質である。

HBM市場ではSK Hynixが過半数のシェアを握り、次世代HBM4市場でも70%を確保すると予測されている。2026年1月のCES 2026で、SK Hynixは世界初の16層HBM4モジュールを披露した。48GBの容量と11.7Gbpsの帯域幅を実現し、SamsungとSK Hynixは2026年2月にHBM4の量産を前倒しで開始した。しかし、それでも需要に追いつかない。

波及効果 ― PC、スマートフォン、自動車への影響

AIデータセンターがメモリ市場を席巻する結果、他産業への「クラウドアウト」効果が発生している。AI企業が他の購入者を締め出すことで、予期せぬ影響が無数の産業に波及する。

具体的には、データセンターの建設遅延、ノートPC・テレビなどの消費者向け電子機器の価格上昇、自動車メーカーへのチップ不足の再来が懸念されている。2021-2023年の自動車用半導体不足の記憶はまだ新しいが、今回のメモリ不足はそれと同等かそれ以上の混乱をもたらす可能性がある。

PC市場への影響は特に深刻である。DDR5メモリの価格上昇はPC組み立てコストに直結し、消費者の買い替えサイクルを延長させる。Microsoftが推進するCopilot+ PC構想は、最低16GBのRAMを要件としているが、メモリ価格の高騰がその普及を阻害しかねない。

SoftBank-Intel Z-Angle Memory ― 次世代メモリの賭け

この危機に対する長期的な解として注目されているのが、SoftBank子会社SaimemoryとIntelが2026年2月3日に発表したZ-Angle Memory(ZAM)プログラムである。

ZAMは、DRAMチップを垂直に積層する技術である。Intelが「Next-Generation DRAM Bonding(NGDB)」と呼ぶ接合技術により、メモリ密度を大幅に向上させつつ、消費電力を半減させることを目指す。米国エネルギー省のAdvanced Memory Technology(AMT)R&Dプログラムの支援を受け、サンディア国立研究所、ローレンス・リバモア国立研究所、ロスアラモス国立研究所が技術開発に参画している。

プロトタイプは2028年3月期末まで、商業化は2029年度を目標としている。発表を受けてIntel株は時間外取引で4%以上上昇、SoftBankも3.13%上昇した。しかし、商業化までに3年。それまでの間、メモリ不足は解消されない。

半導体メモリの地政学 ― 寡占と国家戦略

メモリ市場の構造的脆弱性は、地政学的リスクと不可分である。Samsung(韓国)、SK Hynix(韓国)、Micron(米国)の3社が世界のDRAM供給の90%を占める極端な寡占構造は、地政学的ショックに対して脆弱である。

中国のChangXin Memory Technologies(CXMT)は国産メモリの開発を進めており、PCメーカーがCXMT製品の検証を開始したと報じられている。米国の対中半導体規制がHBMなど先端メモリにまで拡大する中、中国は独自のメモリサプライチェーン構築を加速している。

日本も無関係ではない。ラピダスが北海道で先端ロジック半導体の量産を目指す中、メモリ分野での日本の存在感は薄い。かつてDRAM世界シェアの過半を握った日本の半導体産業は、1990年代の日米半導体協定以降、メモリ市場から事実上撤退した。キオクシア(旧東芝メモリ)がNANDフラッシュで健闘するものの、DRAMにおける日本メーカーの不在は、AIインフラの海外依存度を高めている。

本質的課題 ― AIの物理的制約

AIメモリ危機が示す本質的な教訓は、AIの進歩が物理法則から自由ではないということである。アルゴリズムの改善やソフトウェアの最適化は続くが、最終的にはシリコンウェーハの生産能力、電力供給、冷却インフラという物理的制約に縛られる。

Siemens Energyが2026年に米国内のグリッド機器・ガスタービン部品製造に約$10億を投資すると発表したのも、AIワークロードを支えるデータセンターの電力需要急増が背景にある。米国は2028年までに35GWの電力不足に直面し、データセンターは57GWを必要とするが利用可能なのは21GWに過ぎないとされる。

メモリ不足と電力不足は、AI産業の成長速度に対する物理的な天井を形成している。この天井を突破するには、技術革新(ZAMのような次世代メモリ、原子力・SMRによる電力供給)と、需要側の効率化(小型モデルの活用、推論の最適化)の両面からのアプローチが不可欠である。2026年のAI産業は、ソフトウェアの夢と物理的制約の現実が正面から衝突する年となる。

FAQ

AIメモリ危機はいつ解消されるのか?

業界専門家は少なくとも2026-2027年は継続すると予測している。主要メーカーの増産効果が供給に目に見える改善をもたらすのは2028年以降とされる。SoftBank-IntelのZAMプログラムの商業化は2029年度が目標である。

メモリ不足はPCやスマートフォンの価格にどう影響するか?

DRAM価格の上昇はPC・スマートフォンの製造コストに直結する。2026年にはDRAM価格がさらに70%上昇する見込みであり、消費者向け電子機器の価格上昇や、メーカーによるメモリ搭載量の抑制が予想される。

HBM(高帯域幅メモリ)とは何か?

HBM(High Bandwidth Memory)は、DRAMダイを垂直に積層し、シリコンインターポーザで接続した高性能メモリである。AI/MLの訓練・推論に必要な大容量・高帯域幅を提供する。最新のHBM4は16層積層で48GB、11.7Gbpsの帯域幅を実現している。

なぜ3社がDRAM市場の90%を占めているのか?

DRAM製造には数十億ドル規模の設備投資と高度な製造技術が必要であり、参入障壁が極めて高い。1990年代以降の業界再編で多くのメーカーが撤退・統合された結果、Samsung、SK Hynix、Micronの3社による寡占構造が固定化した。

参考文献