2026年現在、APIはあらゆるデジタルサービスの基盤であり、企業のマイクロサービス、モバイルアプリ、IoTデバイス、そしてAIエージェントを接続する「神経系」として機能している。しかし、この遍在性こそがAPIを「新たな境界線」——すなわち、攻撃者にとって最も魅力的な侵入経路——に変貌させた。過去12か月間に99%の組織がAPIセキュリティインシデントを経験し、その経済的損失は年間1,860億ドルに達している。本稿では、2026年のAPIセキュリティ脅威の全体像を俯瞰し、組織が採るべき防衛戦略を提示する。

数字が示す危機 ── 99%の組織が被害、年間$186B

APIセキュリティの現状は、数字で見れば危機的である。Salt Securityの報告書によれば、調査対象の95%の組織が何らかのAPIセキュリティインシデントを経験しており、別の調査では99%の組織が過去1年間に少なくとも1件のAPI関連セキュリティ事象に直面した。

被害の規模も甚大である。APIに起因するセキュリティインシデント、コンプライアンス違反、レピュテーション毀損による年間経済損失は1,860億ドルに上る。ウェブベースの攻撃全体に占めるAPI関連攻撃の割合は90%以上に達しており、APIはファイアウォールやWAFで守られた従来の境界線に代わる、新たな攻撃面の中核となっている。

攻撃手法の進化も急速である。SQLインジェクション攻撃は前年比60%増加しており、攻撃者はAPIエンドポイントの増殖を好機と捉え、自動化ツールとAIを駆使して脆弱性を探索している。

OWASP Top 10 APIリスク ── BOLAと「低速攻撃」

OWASP API Security Top 10において、最も深刻かつ頻発するリスクがBOLA(Broken Object Level Authorization)である。BOLAは全API攻撃の約40%を占めており、攻撃者がリクエスト中のオブジェクトIDを改竄することで、本来アクセス権限のないデータにアクセスする手法である。

BOLAが特に危険な理由は、その「低速性」にある。WAFやレートリミッターでは検知が困難であり、正規ユーザーの振る舞いと区別がつきにくい。攻撃者は1件ずつIDを変更しながらリクエストを送信し、数時間から数日をかけて大量のデータを窃取する。

BOLA以外にも、BFLA(Broken Function Level Authorization)、過剰なデータ公開、リソース管理の不備といったリスクが上位を占める。いずれも認可ロジックの設計不備に起因しており、APIの設計段階からセキュリティを組み込む「シフトレフト」アプローチの重要性を示している。

AIエージェントという新たな攻撃面

2026年のAPI脅威を語る上で避けて通れないのが、AIエージェントの台頭である。AIエージェントはタスク実行のためにAPIを大量に呼び出す存在であり、OWASPは「Top 10 for Agentic Applications」を新たに公表し、エージェント固有のセキュリティリスクを体系化した。

マシンIDの爆発的増加もこの文脈で理解すべきである。現在、1つの人間アイデンティティに対して約82のマシンアイデンティティが存在し、そのうち40%以上が特権アクセスを保持している。AIエージェントが自律的にAPIを呼び出す際、そのアイデンティティの管理と権限制御が不十分であれば、攻撃者はエージェントの認証情報を窃取するだけで、広範なシステムへの横展開が可能になる。

さらに、AIエージェントがAPIの主要な消費者となることで、ボット駆動型のAPI悪用が増加している。正規のAIサービスと悪意あるボットの区別は困難を極め、従来のボット対策では対応できない新たなカテゴリの脅威が出現している。

シャドーAPI・ゾンビAPI ── 見えない脅威

組織が直面するもう一つの深刻な課題が、「シャドーAPI」と「ゾンビAPI」の問題である。シャドーAPIとは、開発プロセスの中で非公式に作成され、APIインベントリやセキュリティ管理の対象外となっているエンドポイントを指す。マイクロサービスアーキテクチャの普及とアジャイル開発の加速により、開発者がセキュリティチームの関知しないAPIを本番環境にデプロイするケースは後を絶たない。

ゾンビAPIは、かつて使用されていたが現在は不要となったにもかかわらず、停止されずに稼働し続けているエンドポイントである。組織が認識しているAPIの数と実際に稼働しているAPIの数には平均で40%以上の乖離があるとされている。

サプライチェーンを通じたAPI攻撃も深刻化している。サードパーティAPIやSaaSプロバイダのAPIを経由した間接的な侵入は、自組織のセキュリティ対策だけでは防ぎきれない。サプライチェーン全体を視野に入れたセキュリティ管理が不可欠である。

防衛戦略 ── ゼロトラスト、DevSecOps、行動分析

上述の脅威に対抗するため、組織は多層的な防衛戦略を採用すべきである。第一に、APIの完全な可視化(Discovery)を確立することである。シャドーAPIとゾンビAPIを検出するため、ネットワークトラフィックの継続的な分析とAPIインベントリの自動更新を実装すべきである。

第二に、行動分析(Behavioral Analytics)を導入することである。BOLAのような低速攻撃はシグネチャベースの検知では捕捉できない。正常なAPI利用パターンのベースラインを構築し、逸脱する振る舞いをリアルタイムで検知する仕組みが必要である。

第三に、送信者拘束トークンを実装することである。OAuth 2.0のDPoPやmTLS証明書バインディングにより、トークンの窃取による不正利用を防止する。第四に、ゼロトラストアーキテクチャをAPI層に適用することである。すべてのAPIリクエストに対して認証・認可・検証を行い、暗黙の信頼を排除する。第五に、DevSecOpsパイプラインにAPIセキュリティテストを統合することである。

FAQ

APIセキュリティとWebアプリケーションセキュリティの違いは何か?

従来のWebアプリケーションセキュリティは、ブラウザを介した人間のユーザーを主な対象としてきた。APIセキュリティはマシン間通信を保護する必要があり、攻撃者はUIを経由せずにビジネスロジックの脆弱性を突くことができる。認可制御の粒度、レートリミッティング、入力検証の設計が根本的に異なる。

AIエージェント時代のAPIセキュリティで最も重要な対策は何か?

マシンアイデンティティの管理と最小権限の原則の徹底である。1つの人間IDに対して82ものマシンIDが存在する現状では、各AIエージェントに付与する権限の精密な制御が最優先事項となる。短寿命トークンの採用、スコープの最小化、送信者拘束トークンによるトークン窃取対策が有効である。

中小企業がAPIセキュリティに取り組む際の優先順位は?

まず自組織が公開しているAPIの完全なインベントリを作成し、シャドーAPIとゾンビAPIを特定することから始めるべきである。次に、OWASP API Security Top 10に基づく脆弱性診断を実施し、特にBOLAとBFLAの対策を優先的に実装する。クラウドネイティブのAPIゲートウェイが提供する組み込みセキュリティ機能の活用が費用対効果の高いアプローチとなる。

参考文献