2026年、Web アプリケーションのデプロイ先として「エッジ」が標準的な選択肢となりつつある。Cloudflare Workers、Vercel Edge Functions、Deno Deploy などのプラットフォームは、コードをユーザーに近い場所で実行することで、従来のサーバーレスでは達成できなかったレイテンシ削減を実現している。本記事では、Edge-First アーキテクチャの基本概念から、プラットフォーム選定、実装パターンまでを解説する。

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングとは、データセンターの中央集権的なサーバーではなく、世界中に分散配置されたノード(エッジロケーション)でコードを実行する手法である。ユーザーのリクエストは、最も近いエッジロケーションで処理されるため、物理的な距離に起因するネットワークレイテンシが大幅に削減される。

従来のサーバーレス(AWS Lambda、Google Cloud Functions など)では、リージョン単位でのデプロイが一般的であった。東京リージョンにデプロイした関数は、北米やヨーロッパからのリクエストに対して100〜200ms以上のレイテンシが発生する。エッジ関数では、300以上のロケーションに自動的にデプロイされ、どの地域からのリクエストでも数十ミリ秒以内の応答が可能になる。

主要プラットフォームの比較

2026年現在、エッジ関数を提供する主要プラットフォームとして、Cloudflare Workers、Vercel Edge Functions、Netlify Edge Functions がある。各プラットフォームの特性を比較する。

Cloudflare Workers

V8 isolate アーキテクチャを採用し、コールドスタートが10ms未満という圧倒的な性能を誇る。グローバル平均レイテンシは25ms(P99でも75ms)であり、他のプラットフォームを大きくリードしている。300以上のデータセンターに自動デプロイされ、無料枠でも月間100万リクエストまで利用可能である。

Vercel Edge Functions

Next.js との統合が最大の強みである。App Router の API Routes をエッジ関数として実行でき、開発体験がシームレス。内部的には Cloudflare の基盤を使用しており、グローバル平均レイテンシは35ms程度。コールドスタートも20ms未満に抑えられている。

Netlify Edge Functions

Deno Deploy を基盤としており、Deno ランタイムの機能をフル活用できる。グローバル平均レイテンシは45ms程度。Astro や SvelteKit など、Next.js 以外のフレームワークとの相性が良い。

指標Cloudflare WorkersVercel EdgeNetlify Edge
平均レイテンシ25ms35ms45ms
P99 レイテンシ75ms90ms110ms
コールドスタート<10ms<20ms<30ms
データセンター数300+非公開Deno Deploy依存
無料枠100万req/月10万req/月制限あり

Edge-First の設計パターン

エッジ関数を効果的に活用するためのアーキテクチャパターンを紹介する。

パターン1: エッジでの認証とルーティング

JWT トークンの検証やアクセス制御をエッジで行い、オリジンサーバーへの不要なリクエストを削減する。認証に失敗したリクエストはエッジで即座に拒否され、オリジンの負荷が軽減される。

パターン2: エッジキャッシュの活用

Cloudflare Workers KV や Vercel Edge Config を使用して、頻繁にアクセスされるデータをエッジにキャッシュする。データベースへのクエリを削減し、応答時間を大幅に短縮できる。

パターン3: 地理情報に基づくパーソナライゼーション

エッジ関数は、リクエスト元の国や都市の情報を取得できる。この情報を活用して、言語の自動切り替えや地域限定コンテンツの表示を実現できる。

パターン4: A/B テストとフィーチャーフラグ

エッジでトラフィックを分割し、異なるバージョンのコンテンツを配信する。LaunchDarkly や Statsig などのフィーチャーフラグサービスと組み合わせることで、リアルタイムの実験が可能になる。

制限事項と対処法

エッジ関数には、従来のサーバーレス関数とは異なる制限がある。

  • 実行時間制限:Cloudflare Workers は無料プランで10ms、有料プランで30秒。長時間処理には向かない。
  • メモリ制限:128MB程度に制限されている。大量のデータ処理には不向き。
  • Node.js API の制限:ファイルシステムアクセスやネイティブモジュールは使用不可。
  • データベース接続:コネクションプールの維持が困難。HTTP ベースのデータベース(PlanetScale、Neon、Turso など)の使用が推奨される。

これらの制限を踏まえ、エッジ関数は「軽量な処理」に特化させ、重い処理は従来のサーバーレス関数やコンテナにオフロードするハイブリッドアーキテクチャが現実的である。

今後の展望

2026年のトレンドとして、V8 ベースのエッジランタイムへの収束が進んでいる。Vercel Edge Runtime、Netlify Edge Functions(Deno)、Cloudflare Workers のいずれも、JavaScript/TypeScript をネイティブにサポートし、WebAssembly による他言語のサポートも拡大している。

生成 AI ツール(v0、Lovable など)がエッジ環境へのデプロイをデフォルトでサポートし始めており、開発者がインフラを意識せずにグローバル配信を実現できる時代が到来しつつある。React Server Components や Astro の Islands Architecture との組み合わせにより、エッジレンダリングの採用はさらに加速すると予測される。

FAQ

エッジ関数と従来のサーバーレス関数の違いは何ですか?

従来のサーバーレス関数はリージョン単位でデプロイされるが、エッジ関数は世界中のエッジロケーションに自動配置される。これによりユーザーに近い場所で処理が行われ、レイテンシが大幅に削減される。

どのようなユースケースに適していますか?

認証・認可、リダイレクト、A/Bテスト、地理情報に基づくパーソナライゼーション、APIゲートウェイなど、低レイテンシが求められる軽量な処理に適している。

データベースとの接続はどうしますか?

従来のコネクションプール方式は使用できない。PlanetScale、Neon、Turso などの HTTP ベースのデータベースや、Cloudflare D1 のようなエッジネイティブなデータベースの使用が推奨される。

コストは高くなりますか?

Cloudflare Workers は無料枠が充実しており、小〜中規模のプロジェクトでは従来のサーバーレスよりも安価になることが多い。大規模になると、リクエスト数とCPU時間に応じた課金となる。

参考文献