2026年2月19日、GoogleはGemini 3.1を発表し、最上位のGemini 3.1 Proを含む推論モデル競争を次の局面へ進めた。ARC Prizeの公開リーダーボード(2026年2月25日確認)では、Gemini 3.1 ProがARC-AGI-2で77.1%を記録し、同ボード上のClaude Opus 4.6(69.6%)を7.5ポイント上回っている。

本稿は、この性能差そのものよりも、性能差が資本配分・推論単価・研究開発組織設計に与える影響を論点化する。特に、OpenAIが2026年9月に「研究インターン級」、2028年3月に「完全自律研究者」へ到達するとの内部目標を持つと報じられた点を、インフラ投資とテスト時間計算(test-time compute)の経済性から検証する。

性能ジャンプの意味: ARC-AGI-2で何が起きたか

ARC-AGI-2は、単純な暗記ではなく新規タスクへの抽象化能力を測るため、汎用推論能力のシグナルとして継続的に参照されている。ARC Prizeのモデル比較では、Gemini 2.5 Pro(31.1%)からGemini 3.1 Pro(77.1%)へ約2.48倍の上昇である。四捨五入すれば約2.5倍の改善であり、単なる漸進ではなく「世代交代型」の伸びである。

この変化は、モデルの学習量増加だけでは説明しにくい。OpenAI自身も2024年9月の推論モデル解説で、性能が学習時計算だけでなく推論時の計算配分でも拡張することを示している。すなわち、競争軸は「学習済みモデルの静的精度」から「実行時にどれだけ計算予算を柔軟投入できるか」へ移動している。

OpenAIタイムラインと市場へのシグナル

2026年1月10日付Reuters報道によれば、OpenAIは社内資料で2026年9月に研究インターン相当、2028年3月に完全自律研究者に到達する目標を共有したとされる。これは公式ロードマップ文書としてOpenAIが公開したものではないため、投資判断では「確定計画」ではなく「経営が想定する能力到達レンジ」として扱うべきである。

ただし、目標時期が前倒しで示されること自体は市場シグナルとして強い。研究自動化が実現する場合、価値はモデル単体ではなく、探索・仮説生成・実験設計・検証を回すエージェント運用基盤に集中する。結果として、評価指標はベンチマーク単発点ではなく、単位コストあたりの反復回数と成功率に移る。

30GW・1.4兆ドルシナリオをどう読むか

OpenAIは2025年1月21日にStargate構想を公表し、向こう4年間で米国AIインフラへ5000億ドルを投資する計画、初期段階で10GW級の計算能力を構築する方針を示した。ここから単純比例で30GWへ拡張すると、理論上の資本規模は約1.5兆ドルとなる。市場で言及される「30GW・1.4兆ドル」は、この延長線上のシナリオとして整合的である。

重要なのは、絶対額より資本効率である。10GWから30GWへの拡張は、電力調達・送配電制約・冷却水・建設リードタイムがボトルネックになりやすく、単純な三倍増しでは済まない。従って、推論側での計算最適化(動的推論深度、ルーティング、キャッシュ再利用)が、設備投資の代替手段として経済的価値を持つ。

テスト時間計算の経済性とAGI予測の収束

テスト時間計算は、難問に対してのみ追加計算を投入し、易問では計算を節約する価格差別化メカニズムとして機能する。企業にとってのKPIは「1回答あたり平均コスト」ではなく、「業務成果1単位あたりの総計算コスト」に変わる。ARC-AGI-2のような高難度評価で大幅改善が出るほど、追加計算を許容する事業者が増え、市場は高性能モデルへの集中度を高める。

同時に、AGI到達予測は分散から収束へ向かいやすい。理由は、(1) 高難度ベンチの改善速度、(2) 計算資本の実装速度、(3) 研究自動化の実証事例、という3系列が同時に更新されるためである。2026年2月時点では、Gemini 3.1 Proの実測スコア、OpenAIの巨額インフラ計画、そして自律研究タイムライン報道が同方向を示し、従来より短い区間で「実用的な自律研究」が立ち上がる可能性を示唆している。

結論として、勝敗を決めるのは単発のモデル公開日ではない。資本コストを制御しながら推論性能を増幅する運用能力、そして研究プロセス全体を自動化できる実装速度である。今後12-24か月の観測点は、ベンチマークの次回更新よりも、研究エージェントがどの産業で正味の生産性を証明するかにある。

FAQ

Gemini 3.1 Proの77.1%は確定値か

ARC Prize公式リーダーボードの公開値(2026年2月25日確認)に基づく。今後の再評価や条件変更で更新される可能性があるため、運用上は「観測時点付き」で参照するのが適切である。

「2028年完全自律研究者」はOpenAIの公式発表か

現時点ではReutersが2026年1月10日に報じた社内資料ベース情報であり、OpenAIの公開ロードマップとして明文化された一次文書は確認できていない。したがって確定事実ではなくシナリオ前提として扱うべきである。

30GW・1.4兆ドルはどこまで妥当か

OpenAI公表の10GW・5000億ドル計画を線形外挿した近似シナリオとしては妥当である。ただし現実には電力・土地・建設・サプライチェーン制約があるため、実コストは非線形に増える可能性が高い。

企業は何を優先して投資判断すべきか

モデル名よりも、タスク難易度に応じた推論コスト制御、評価ループ自動化、再現可能な実験管理の3点を優先すべきである。これが自律研究のROIを左右する。

参考文献