2026年2月、BeyondTrustのRemote SupportおよびPrivileged Remote Access(PRA)製品において、CVSS 9.9という最高レベルの深刻度を持つ認証前リモートコード実行(RCE)脆弱性CVE-2026-1731が発見された。この脆弱性を発見したのは、AIセキュリティ企業Hacktron AIである。注目すべきは、この発見が人間の手作業ではなく、AI駆動の「バリアント分析」と呼ばれる新技術によって実現されたという点だ。AIが脆弱性を自律的に発見する時代が現実のものとなりつつある今、防御側と攻撃側の双方にとって、ゲームのルールが根本から変わろうとしている。
CVE-2026-1731の概要と深刻性
CVE-2026-1731は、BeyondTrust Remote Support 25.3.1以前およびPrivileged Remote Access 24.3.4以前に存在する、認証前のOSコマンドインジェクション脆弱性である。攻撃者は認証なしにリモートから任意のOSコマンドを実行可能であり、サイトユーザーのコンテキストで完全なシステムアクセスを取得できる。
Rapid7の調査によれば、約11,000のインスタンスがインターネットに公開されており、そのうち約8,500がオンプレミス環境であるため、手動パッチ適用が必要とされる。BeyondTrustは2026年2月2日にSaaS顧客向けにパッチを適用したが、セルフホスト環境の顧客は手動での対応が求められた。
特筆すべきは、PoC(概念実証コード)が公開されてから数時間以内に実際の攻撃が観測されたことである。これは、脆弱性の悪用可能性が極めて高く、攻撃者にとって魅力的なターゲットであることを示している。
AIバリアント分析の技術的メカニズム
Hacktron AIが採用した「AI-enabled variant analysis」は、既知の脆弱性パターンから類似の未知の脆弱性を自動的に発見する手法である。この技術は、以下のようなステップで動作すると考えられる。
まず、大規模なコードベースを高速にスキャンし、既知の脆弱性と類似するコードパターンを検出する。Trend MicroのÆSIRプラットフォームの事例では、AI自動化と専門家の監視を組み合わせることで、NVIDIA、Tencent、MLflowなど複数のAIインフラプロジェクトから21件のCVEを発見した。このプロセスは従来数週間を要していたものが数時間で完了する。
次に、検出されたパターンの中から実際に悪用可能な脆弱性を優先順位付けする。OpenAIのAardvarkエージェントは、「ゴールデン」リポジトリのベンチマークテストで既知および合成的に導入された脆弱性の92%を識別し、高いリコール率と実世界での有効性を実証している。Aardvarkはオープンソースプロジェクトにも適用され、数多くの脆弱性を発見し、そのうち10件がCVE識別子を取得した。
最後に、発見された脆弱性の実証コードを自動生成し、トリアージを行う。Hacktron AIは「報告する脆弱性は必ず実証できる」という方針を掲げており、発見されたすべての脆弱性に対して動作するPoC(概念実証)を提供する。さらに、実行可能なパッチをプルリクエスト形式で提供し、開発チームがそのままマージできる形で修正を提案する。
脆弱性発見の産業化がもたらすインパクト
AI駆動の脆弱性発見ツールの登場は、セキュリティ研究のコスト構造を根本から変えつつある。Hacktron AIのケースでは、従来2万~3万ドルかかるスコープのペネトレーションテストを約3分の1の価格で実現したと報告されている。これは、AIが「脆弱性発見の民主化」を推進していることを意味する。
Palo Alto Networksの予測によれば、2026年には「脆弱性発見から悪用までのコストと時間が実質ゼロに近づく」とされている。従来は数週間と数千ドルを要していたプロセスが、AIによって劇的に短縮されたのだ。この変化は防御側にとっては機会であり、脅威でもある。
防御側の視点では、常時稼働型のペネトレーションテスト、継続的な脆弱性評価、自律的な攻撃面管理が2026年に広く採用されると予測されている。従来の「ポイントインタイム評価」から「継続的なクローズドループ型のサイバーレジリエンス」へとパラダイムシフトが起きており、脆弱性発見から修正までの時間が数週間・数ヶ月から数時間・数日へと短縮される。
一方で攻撃側もAIを活用し、オープンソースソフトウェアの弱点を迅速に発見・悪用するようになっている。Trend Microの2026年セキュリティ予測レポートでは、「サイバー推論システム(Cyber Reasoning Systems)」の急速な進化が指摘されており、新たにリリースされたLLMの改善が脆弱性発見の有効性を向上させている。
AIセキュリティ研究の倫理的ジレンマ
AIによる自律的な脆弱性発見は、技術的可能性と倫理的責任の間に新たなジレンマを生み出している。Hacktron AIはResponsible Disclosure(責任ある開示)のプロセスに従い、CVE-2026-1731をBeyondTrustに報告した。しかし、すべてのAIセキュリティツールが同じ倫理基準を持つとは限らない。
特に懸念されるのは、AIツールによって発見された脆弱性が悪意のある第三者に悪用される可能性である。CVE-2026-1731の事例が示すように、PoCが公開されると数時間以内に実際の攻撃が始まる。AIが脆弱性発見を加速すればするほど、パッチ適用までのウィンドウが縮小し、防御側の対応負荷が増大する。
また、バグバウンティ業界においてもAIの影響が議論されている。HackerOneなどのプラットフォームはAIツールの使用を認めているが、完全自律型エージェントは依然として認証やコンテキスト理解が必要なシナリオでは苦戦している。人間のセキュリティ研究者の役割が完全に代替されることはないが、AIアシスタントによって単調なタスクが自動化され、研究者の生産性が向上している。
さらに、AI自身のセキュリティリスクも顕在化している。Trend MicroのÆSIRが発見した21件のCVEのうち多くがAIインフラ(NVIDIA、Tencent、MLflow)に関連していたことは、AIシステム自体が新たな攻撃面を持つことを示唆している。AIで脆弱性を発見するツールが、同時にAIの脆弱性を発見するという再帰的な構造が生まれている。
2026年以降の展望
AIセキュリティ研究の未来は、技術革新と規制強化の両面で急速に進展している。PointGuard AIの2026年予測では、AIセキュリティに対する投資が増加し、規制フレームワークが整備される一方で、AI駆動型のサイバー攻撃も高度化すると見られている。
特に注目すべきは、ゼロトラスト・アーキテクチャとAIの統合である。AIエージェントがネットワーク、アプリケーション、ID、構成を継続的にスキャンし、ギャップを検出すると同時に、適切な場合には自動的に修復をトリガーする仕組みが普及すると予測されている。これにより、脆弱性の発見から修正までのサイクルがさらに短縮される。
量子コンピューティングの進展も視野に入れる必要がある。量子耐性暗号への移行が進む中、AIは既存の暗号システムの脆弱性を発見する能力をさらに高めるだろう。2026年は「AIセキュリティ元年」として記憶される可能性が高い。
FAQ
AIによる脆弱性発見は従来の手法とどう違うのか?
従来の脆弱性発見は人間の専門家が手動でコードレビューやファジングを行っていたが、AIは大規模なコードベースを数時間でスキャンし、既知のパターンに類似する新規脆弱性を自動検出できる。さらに、優先順位付けやPoC生成まで自動化されるため、発見から実証までのサイクルが劇的に短縮される。
バリアント分析とは具体的に何を指すのか?
バリアント分析とは、既知の脆弱性パターン(例:SQLインジェクション、コマンドインジェクション)の「変種」を自動的に探索する技術である。AIは過去のCVEデータベースや脆弱性パターンを学習し、コードベース内で類似の脆弱性が存在する可能性のある箇所を特定する。Hacktron AIのCVE-2026-1731発見はこの手法の成功例である。
AIが脆弱性を発見する時代、人間のセキュリティ研究者の役割はどう変わるのか?
AIは単調なスキャンやパターン検出を自動化するが、複雑なビジネスロジックの理解、認証フローの解析、攻撃の実現可能性の判断など、人間のコンテキスト理解が必要な領域は依然として残る。今後は「AIアシスタント」と協働する形で、人間の研究者がより高度な脅威分析や戦略的セキュリティ設計に集中できるようになると考えられる。
CVE-2026-1731のような脆弱性を防ぐにはどうすればよいか?
継続的なセキュリティ評価の導入が鍵となる。従来のポイントインタイム型のペネトレーションテストではなく、常時稼働型の自動脆弱性スキャン、AIによる攻撃面管理、ゼロトラスト・アーキテクチャの実装が推奨される。また、パッチ管理の自動化とインシデント対応の迅速化も不可欠である。
AI脆弱性発見ツールの悪用リスクはどの程度深刻か?
非常に深刻である。CVE-2026-1731の事例が示すように、PoCが公開されると数時間以内に攻撃が始まる。AIツールが脆弱性発見を加速すると、攻撃者もそれを悪用する速度が増す。Responsible Disclosureの徹底、パッチ適用の迅速化、そしてAIセキュリティツール自体のガバナンスが今後の重要課題となる。
参考文献
- CVE-2026-1731: Pre-Auth RCE in BeyondTrust Remote Support & PRA — Hacktron AI, 2026年2月
- BT26-02 Security Advisory — BeyondTrust, 2026年2月
- CVE-2026-1731: Critical Unauthenticated Remote Code Execution in BeyondTrust — Rapid7, 2026年2月
- Introducing ÆSIR: Finding Zero-Day Vulnerabilities at the Speed of AI — Trend Micro, 2026年1月
- Introducing Aardvark: OpenAI's agentic security researcher — OpenAI, 2026年
- 6 Cybersecurity Predictions for the AI Economy in 2026 — Harvard Business Review (Palo Alto Networks), 2025年12月
- The AI-fication of Cyberthreats: Trend Micro Security Predictions for 2026 — Trend Micro, 2025年
- Introducing Hacktron AI: An autonomous penetration test of Gumroad — Hacktron AI, 2026年



