Gartnerは2026年までに大規模ソフトウェアエンジニアリング組織の80%がプラットフォームチームを設立すると予測している。2022年の45%から急速に拡大し、プラットフォームエンジニアリングはDevOpsの次の進化段階として定着しつつある。本稿では、IDPの設計パターン、Golden Pathsによる開発者体験の最適化、AI統合の最前線を解説する。

採用加速の背景 ── なぜ今、IDPが必要なのか

Gartnerの予測によれば、2026年までに大規模ソフトウェアエンジニアリング組織の80%が、アプリケーションデリバリーのための再利用可能なサービス・コンポーネント・ツールの内部提供者としてプラットフォームチームを設立する。2022年時点の45%から劇的な増加である。2025年時点で既に55%以上の組織がプラットフォームエンジニアリングを採用しており、Kubernetes中心の環境では60%以上がプラットフォームチームを形成済みまたは計画中である。

この急速な採用の背景には、DevOpsの「全員が全てを知るべき」というアプローチの限界がある。マイクロサービスアーキテクチャの複雑化、Kubernetesの運用負荷、CI/CDパイプラインの多様化により、開発者の認知負荷が限界に達した。IDPは、インフラストラクチャの複雑性を抽象化し、開発者がビジネスロジックに集中できる環境を提供する。

Gartnerは内部開発者ポータルを「モダンソフトウェア開発環境における再利用可能なコンポーネント、ツール、プラットフォームサービス、知識資産のセルフサービス発見・自動化・アクセスを可能にするツール」と定義している。2028年までに、プラットフォームエンジニアリングチームを持つ組織の85%が内部開発者ポータルを提供すると予測されている。

IDP設計の核心 ── セルフサービスポータルの構築

IDPの設計は「製品思考」に基づくべきである。プラットフォームチームは内部サービスの「プロダクトマネージャー」として、開発者(ユーザー)のニーズを理解し、使いやすいインターフェースを提供する。

サービスカタログ。Backstage(Spotify OSS)やPort、Cortexなどのツールを基盤に、組織内のすべてのサービス、API、インフラリソースを一覧化する。所有者、依存関係、SLO、ドキュメントを統合的に管理し、開発者が必要なリソースを自力で発見できる環境を整える。

テンプレートとスキャフォールディング。新規サービスの作成をテンプレート化し、CI/CDパイプライン、モニタリング設定、セキュリティスキャンが自動的に構成された状態でプロジェクトを開始できるようにする。これにより、「Day 0」の摩擦を大幅に削減する。

ワークフロー自動化。環境プロビジョニング、データベース作成、証明書管理などの定型タスクをセルフサービス化する。承認フローを組み込みつつ、開発者が人手を介さずにリソースを取得できる仕組みを構築する。

Golden Pathsの設計と運用

Golden Paths(推奨パス)は、プラットフォームエンジニアリングの中核概念である。組織が推奨するテクノロジースタックと設計パターンを明確化し、開発者がそれに沿って開発することで、品質・セキュリティ・運用性を担保する。

Golden Pathsの設計原則として、「強制」ではなく「誘導」が重要である。推奨パスに従うことが最も簡単で生産的な選択肢となるよう設計する。例えば、推奨スタックでの新規サービス作成は数クリックで完了するが、非推奨スタックを選択する場合は追加の設定と承認が必要となる構成にする。

Mercado Libreの事例は示唆的である。同社はIDPを「開発者の成功を加速するプラットフォーム」として位置付け、数千人規模の開発者にセルフサービス環境を提供している。Golden Pathsに沿った開発は、デプロイ頻度の向上と障害率の低下を同時に実現した。

Build vs Buy ── DIY時代の終焉

2026年のプラットフォームエンジニアリングにおける重要な転換点は、「DIYの死」である。Roadie社の分析によれば、BackstageをベースにしたフルカスタムIDPの構築は、多くの組織にとってコストと複雑性が見合わなくなっている。

主要なIDPプラットフォームは以下のカテゴリに分類される。OSS基盤型としてBackstage(Spotify)、SaaS型としてPort、Cortex、OpsLevel、Roadie、インフラ統合型としてHumanitec、Kratixがある。Gartner Peer Insightsでは、これらのツールの比較レビューが蓄積されており、組織の規模や成熟度に応じた選定が可能となっている。

選定の判断基準として、チーム規模(100人未満はSaaS推奨)、既存ツールとの統合要件、カスタマイズの必要性、運用チームの有無が重要となる。

AI統合とプラットフォームエンジニアリングの未来

AI統合はIDPの次のフロンティアである。Gartnerは2028年までにエンタープライズソフトウェアエンジニアの90%がAIコードアシスタントを使用すると予測している(2024年初頭の14%未満から)。

IDPにおけるAI統合の具体的なユースケースとして、AIアシスタントによるインフラプロビジョニング(自然言語での環境構築指示)、インシデント対応の自動化(アラートからの根本原因分析と修正提案)、ドキュメント自動生成(コードからのAPIドキュメントとランブック生成)が挙げられる。

2026年に向けて、プラットフォームエンジニアリングは単なるインフラ抽象化から、AI駆動の開発者生産性プラットフォームへと進化する。開発者体験(DevEx)メトリクスの測定と改善が、プラットフォームチームのKPIとして定着しつつある。

FAQ

IDPとは何ですか?

Internal Developer Platformの略で、CI/CD、IaC、監視を統合したセルフサービスポータル。開発者がインフラの複雑性を意識せずにサービスの構築・デプロイ・運用を行える環境を提供する。

BackstageとSaaS型IDPのどちらを選ぶべきですか?

チーム規模100人未満はSaaS型(Port、Cortex等)を推奨。大規模組織でカスタマイズが必要な場合はBackstageベースだが、運用・開発リソースの確保が前提となる。

Golden Pathsとは何ですか?

組織が推奨するテクノロジースタックと設計パターンの「推奨経路」。強制ではなく、従うことが最も生産的な選択肢となるよう設計することがポイント。

プラットフォームチームの適正規模は?

一般的に開発者10-15人に対しプラットフォームエンジニア1人が目安。ただし初期は少人数(3-5人)でMVPを構築し、価値を実証してからスケールすべき。

参考文献