従来型VPNの限界が明らかになる中、ゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)への移行が加速している。最新の調査によれば、65%の企業がVPNをZTNAに置き換える計画を持っている。「VPNはビル全体のマスターキーを渡すようなもの。ZTNAは必要な部屋だけを開ける鍵を渡すようなもの。その鍵が盗まれても、被害は限定される」──この比喩がゼロトラストの本質を端的に表している。

ゼロトラストの基本原則

ゼロトラストアーキテクチャ(ZTA)は、ネットワーク内外を問わず、いかなるユーザーやデバイスも暗黙的に信頼しないセキュリティフレームワークである。すべてのアクセス要求に対して厳格な検証を要求し、最小権限アクセスを付与し、継続的に脅威を監視する。

ゼロトラストの3つの核心原則は以下の通りである。

  • Never trust, always verify:すべてのリクエストを、証明されるまで敵対的とみなす
  • 最小権限アクセス:タスクに必要な最小限の権限のみを、最短時間だけ付与する
  • 侵害を前提とした設計:侵害が発生した場合の被害を最小化するよう設計する(マイクロセグメンテーションなど)

VPNの限界とZTNAへの移行

VPNには構造的な弱点がある。接続が確立されると、ユーザーは広範なネットワークアクセスを得る。盗まれた認証情報は「ネットワーク全体のマスターキー」となり、単一の漏洩パスワードで企業の内部リソースへの侵入が可能になる。

さらに、インターネットに面したVPNコンセントレータはランサムウェアの高価値ターゲットとして繰り返し悪用されてきた。リモートワークの拡大により、この攻撃対象面は拡大し続けている。

ZTNAはこれらの問題を根本から解決する。ユーザーが接続すると、ネットワーク全体ではなく、許可された特定のアプリケーションとサービスにのみアクセスできる。アイデンティティ認識レイヤーにより、場所を問わず安全なアプリケーション接続が可能になる。

ZTNAの仕組み

ZTNAは、従来の境界ベースのセキュリティとは根本的に異なるアプローチを取る。

項目従来型VPNZTNA
信頼モデル境界ベース(内部は信頼)アイデンティティベース(常に検証)
アクセス範囲ネットワーク全体個別アプリケーション
認証接続時のみ継続的な検証
可視性限定的詳細なアクセスログ
攻撃対象面広い最小化

ZTNAでは、ユーザーとデバイスを継続的に認証し、デバイスポスチャ、位置情報、セキュリティポリシーなどのコンテキストに基づいてアプリケーションレベルのアクセスを提供する。これにより、ネットワーク全体を公開することなく、必要なリソースへのアクセスを可能にする。

主要なZTNAソリューション

2026年現在、以下のZTNAソリューションが市場をリードしている。

Zscaler Private Access(ZPA)

クラウドネイティブなZTNAプラットフォームで、ネットワークを公開せずにユーザーをアプリケーションに直接接続する。ユーザーとデバイスのコンテキストを継続的に検証し、アイデンティティ、デバイスポスチャ、位置情報に基づく動的ポリシーを適用する。

Microsoft Entra Private Access

Microsoftのゼロトラストアプローチの中核コンポーネントで、従来型VPNを置き換える。アイデンティティ中心のZTNAソリューションとして、すべてのプライベートアプリとリソースへの安全なアクセスを提供する。

Cloudflare Zero Trust

VPNなしで内部アプリケーションへの安全で高速かつ信頼性の高いアクセスを提供する。アイデンティティベースのポリシー、デバイスポスチャチェック、堅牢な脅威インテリジェンスをサポートし、グローバルネットワークにより低レイテンシと高可用性を実現する。

Twingate

クラウドネイティブなZTNAソリューションで、従来型VPNをアイデンティティベースのアプリケーション単位アクセス制御に置き換える。ネットワークインフラの変更なしに迅速にデプロイできる。

導入のロードマップ

ゼロトラストの実装には、インフラの複雑さに応じて6〜18ヶ月を要するが、段階的アプローチにより早期に成果を得ることができる。

  1. フェーズ1(1〜3ヶ月):最重要資産に対する最小権限アクセスと多要素認証(MFA)の実装
  2. フェーズ2(3〜6ヶ月):アイデンティティプロバイダーとの統合、デバイスポスチャチェックの導入
  3. フェーズ3(6〜12ヶ月):マイクロセグメンテーション、継続的なリスクスコアリングの実装
  4. フェーズ4(12〜18ヶ月):レガシーVPNの完全廃止、全アプリケーションのZTNA移行

欧州の組織にとっては、規制遵守がZTNA移行の緊急性を高めている。NIS2指令は、必須事業者および重要事業者に対してアクセス制御、ロギング、インシデント対応の期待水準を引き上げている。Versa ZTNAなどのソリューションはNIST 800-207などのフレームワークに直接マッピングされ、コンプライアンス対応を支援する。

FAQ

ゼロトラストの導入にはどのくらいの期間がかかりますか?

インフラの複雑さに応じて6〜18ヶ月が一般的だが、段階的アプローチにより最初の3〜6ヶ月で最重要資産の保護を実現できる。

既存のVPNとZTNAを併用できますか?

はい、多くの組織が移行期間中に両方を運用している。段階的にアプリケーションをZTNAに移行し、最終的にVPNを廃止するアプローチが一般的である。

ZTNAはリモートワーカー以外にも有効ですか?

はい、オフィス内のユーザーに対しても有効である。ゼロトラストは「ネットワーク内だから信頼する」という前提を排除し、すべてのアクセスを検証する。内部脅威やラテラルムーブメントの防止に効果的である。

中小企業でもZTNAを導入できますか?

はい、TwingateやCloudflare Zero Trustなど、迅速にデプロイでき、インフラ変更を最小限に抑えたソリューションが利用可能である。無料プランやスタートアップ向け価格を提供するベンダーもある。

参考文献