クラウド支出の30〜35%が無駄に消えている——この衝撃的な数字は、FinOps Foundationの調査で繰り返し確認されてきた。アイドルリソース、過剰プロビジョニング、明確なオーナーシップの欠如。2026年にはパブリッククラウド支出が1兆ドルを超えると予測される中、この「見えない出血」を止めることは経営課題であると同時に、エンジニアリングの課題でもある。
FinOps as Code(FaC)は、この課題に対するエンジニアリング的回答である。インフラをコードで管理するように、クラウドコストもコードで管理する。CI/CDパイプラインにコスト可視化を組み込み、プルリクエストの段階でコスト影響を把握し、ポリシーに基づいて自動的にガードレールを設ける。本稿では、FinOps as Codeの概念から実装、そしてAIワークロード時代における新たな挑戦までを解説する。
クラウドコスト管理の構造的課題
従来のクラウドコスト管理は、月末のダッシュボード確認と事後的なコスト削減施策という「リアクティブ」なアプローチが主流だった。しかし、この方法には根本的な限界がある。
まず、責任の分断がある。インフラを構築するエンジニアと、コストを管理するFinanceチームが分離しているため、コスト意識がアーキテクチャ決定に反映されにくい。次に、フィードバックループの遅延がある。デプロイ後にコスト影響が判明しても、すでにアーキテクチャは固定化されており、変更コストが高い。
FinOps Foundationの2025年レポートによれば、組織の51.4%がまだ「Walk」段階(基礎的な実践)にあり、成熟した「Run」段階に達しているのはわずか14.2%に過ぎない。この成熟度ギャップは、FinOpsが戦略的優先事項として認識されながらも、実際の運用レベルでは追いついていない現実を示している。
FinOps as Codeの本質
FinOps as Code(FaC)とは、Infrastructure as Code(IaC)の原則をクラウド財務管理に適用するアプローチである。コスト管理やリソース配分を、自動化可能で、バージョン管理可能で、チーム間で協調可能なコード駆動プロセスとして扱う。
McKinseyの分析によれば、FinOps as Codeの導入により、グローバルで1,200億ドルの価値が解放される可能性がある。特に、30億ドル以上のクラウド支出を調査した結果、ほとんどの組織には追加で10〜20%のコスト削減余地があることが判明している。
FaCの核心は「シフトレフト」——つまり、コスト最適化をデプロイ後から設計・開発段階に移動させることにある。これにより、コストはアーキテクチャ決定の「第一級市民」として扱われるようになる。
実装のアプローチ
Infracostは、FaCを実現する代表的なオープンソースツールである。TerraformプランをパースしてAWS、Azure、GCPの1,000以上のリソースの月間コストを算出し、プルリクエストにコスト見積もりを自動投稿する。開発者はコードレビューの段階で「この変更は月額$X増加する」という情報を得られる。
ポリシー適用にはOpen Policy Agent(OPA)が広く使われている。Regoという宣言型言語でポリシーを記述し、IaCスクリプトを検証する。ポリシーには2種類ある。「Warn」ポリシーはベストプラクティス違反を警告するがデプロイは許可する。「Block」ポリシーは条件を満たさない場合にデプロイ自体を阻止する——例えば、開発環境に10万ドル以上のインフラをプロビジョニングしようとした場合など。
2026年に向けて、プラットフォームエンジニアリングツールには以下の要件が求められている。GitOps/IaC互換性(コストポリシーをGitでインフラ定義と並べて管理)、自動化されたガバナンス(開発者が調整可能でありながらコンプライアンスを維持するデフォルト設定)、そしてGreenOps統合(環境負荷の可視化をFinOpsに内包)である。
AIワークロードという新たな挑戦
AIインフラへの投資は爆発的に増加している。ハイパースケーラー5社(Amazon、Google、Microsoft、Meta、Oracle)の設備投資は2026年に6,000億ドルを超える見込みで、2025年比36%増となる。このうち約75%、すなわち4,500億ドルがAIインフラ(サーバー、GPU、データセンター)に直接投入される。
GPU単価も課題である。高性能GPUインスタンスは1時間あたり2〜15ドル、H100に至っては4〜8ドルが相場だ。さらに、データ転送(エグレス)料金とストレージが月額コストに20〜40%上乗せされる。
特筆すべきは、推論(Inference)コストの急増である。2026年初頭には推論がAIインフラ支出の55%を占め、2023年の33%から大幅に増加している。モデルが研究から本番運用に移行するにつれ、2030年には推論が全AIコンピュートの75〜80%を占めると予測されている。
FinOps Foundationの調査では、63%の組織がAI支出を追跡しており、前年の31%から倍増している。AI時代のFinOpsは、従来のクラウドコストに加え、GPUコスト、モデルトレーニングコスト、推論コストという新たな次元を管理する必要がある。
プラットフォームエンジニアリングとの統合
FaCが真価を発揮するのは、プラットフォームエンジニアリングと統合されたときである。プラットフォームエンジニアは、コンテナ化されたワークロードのコスト配賦、マルチテナント環境での共有リソースコストの可視化、短命なエフェメラルインフラの追跡といった課題に直面している。
重要なのは、開発者がIDEを離れて別のFinOpsダッシュボードを見に行く必要がない状態を作ることだ。コスト情報は開発者ポータル、GitOpsパイプライン、IaCレビューの中に自然に表示されなければならない。
2025年のFinOpsフレームワーク更新は、この方向性を反映している。自動化、役割と責任の明確化、そして実行可能なデータへのフォーカスが強化され、調達、セキュリティ、コンプライアンス機能との連携も拡大している。FinOpsツールへの投資は前年比20%増加しており、効率性とスケーラビリティが次のフェーズを定義することになる。
FAQ
FinOps as Codeを導入するために最低限必要なものは何ですか?
TerraformなどのIaCツールと、Infracostのようなコスト見積もりツール、そしてCI/CDパイプラインへの統合が最低限の構成である。GitHub Actionsであれば数時間で基本的なセットアップが可能だ。
既存のFinOpsツールとFinOps as Codeは競合しますか?
競合ではなく補完関係にある。従来のFinOpsツールは事後的なコスト分析と最適化提案に強く、FaCは事前のコスト予測とガードレール設定に強い。両者を組み合わせることで、プロアクティブとリアクティブの両面をカバーできる。
AIワークロードのコスト管理で最も重要な指標は何ですか?
GPU使用率と推論コスト per リクエストが重要である。トレーニングは一時的なコストだが、推論は本番運用中ずっと発生し続けるため、推論効率の最適化が長期的なコスト削減に直結する。
小規模チームでもFinOps as Codeは有効ですか?
有効である。むしろ小規模チームほど、専任のFinOps担当を置けないため、自動化されたガードレールの恩恵が大きい。Infracostは無料プランでも基本機能が使え、導入障壁は低い。
参考文献
- FinOps Foundation — FinOpsフレームワークと成熟度モデルの公式リソース
- The State of FinOps 2025 — FinOps Foundation, 2025年版年次調査レポート
- FinOps as code unlocks cloud spend optimization — McKinsey & Company
- Infracost — Shift FinOps Left: Terraformのプルリクエストにコスト見積もりを表示するオープンソースツール
- 10 FinOps tools platform engineers should evaluate for 2026 — Platform Engineering
- Hyperscaler capex > $600 bn in 2026 — IEEE ComSoc Technology Blog, 2025年12月



