2026年、パブリッククラウド支出が1兆ドルを突破する。Forresterの予測では1.03兆ドル。しかし、その30〜35%は無駄に消えている。過剰プロビジョニング、アイドルリソース、財務ガバナンスの不在――年間3,000億ドル以上が価値を生まずに蒸発する計算である。AIワークロードのGPUインスタンスは通常コンピュートの5〜10倍のコストがかかり、新たな「コスト爆弾」と化している。本稿では、FinOpsが「コスト可視化」から「自律最適化」へと進化する2026年の現在地を分析する。
クラウド1兆ドル時代の実態 ― 30%の無駄
グローバルクラウドコンピューティング市場は2025年に約9,430億ドルに達し、2026年に1兆ドルを超える見通しである。この成長はAI導入の加速、エンタープライズのモダナイゼーション、マルチクラウド戦略によって牽引されている。
問題は、この巨額の支出が効率的に使われていないことである。業界データは一貫して、クラウド支出の30〜35%が過剰プロビジョニング、アイドルリソース、不十分な財務ガバナンスによって浪費されていることを示している。1兆ドルの30%は3,000億ドル。日本円にして約45兆円が毎年「蒸発」している計算になる。
クラウドコストの管理が困難な理由は、その動的な性質にある。オートスケーリング、スポットインスタンス、マルチリージョンデプロイメント、コンテナ化されたマイクロサービス――従来の固定費ベースのIT予算管理では追跡不能な変動要素が無数に存在する。
AIワークロードという新たなコスト爆弾
AIワークロードは、クラウドコストの最も急速に成長し、かつ最も高価なカテゴリである。GPUインスタンスは通常のコンピュートインスタンスの5〜10倍のコストがかかる。ある企業のチャットボットは、アクション単位の支出を誰も追跡していなかったために、APIコストだけで1日200ドルに達した事例が報告されている。
63%の組織がAI/MLコストの追跡を開始しており、これは2024年の31%から倍増した。しかし、「追跡」と「最適化」の間には大きな溝がある。多くの組織はAIの推論コスト、トークン消費量、GPU利用率を把握し始めたばかりで、最適化の段階には至っていない。
2026年のFinOpsにおける重要な変化は、プラットフォームがAI専用の予算枠を導入し始めていることである。トークンコストと推論コストを既存のクラウドコスト管理に統合し、新たなコンピュート費用のフロンティアを精密かつ事前予防的に管理する動きが広がっている。
「推奨」から「自律実行」へ ― AI-Native FinOps
2026年は、AIエージェントが「アシスタント」から「実行者」に転換する年となる。現在の多くの組織は、ライトサイジング、アイドルリソース検出、異常予測などの「推奨」にAIを活用している。2026年には、エンジニアリングチームとファイナンスチームが設定したガードレールに基づいて、これらのシステムが自律的に行動し始める。
具体的には、デプロイメント前のコストゲート(ユニットエコノミクスの閾値を超えるサービスをブロック)、自動リソースライトサイジング、リアルタイムのスポットインスタンス切り替えなどが実装される。FinOpsは「事後的なコスト管理」から「継続的な自動最適化」へとパラダイムシフトする。
ユニットエコノミクスの欠落 ― 43%の盲点
ユニットレベルでクラウドコストを追跡している組織はわずか43%にとどまる。つまり、過半数の組織は「1ユーザーあたり」「1トランザクションあたり」「1機能あたり」のコストを正確に把握できていない。
総クラウド支出は、チームが効率的に運営しているか、収益性があるかを示さない。ユニットエコノミクスは、コストをビジネス価値に紐づける唯一の方法である。SaaSとAI駆動アーキテクチャが拡大するにつれ、ユニットメトリクスはROIの理解を容易にする。
DORAメトリクスがソフトウェアデリバリーの測定における出発点であったように、FinOpsにおけるユニットエコノミクスは「次の標準」となりつつある。2026年に成功するプラットフォームチームは、ROIをビジネス用語で測定・伝達する。具体的には、「実現した収益」「回避したコスト」「プロフィットセンターとしての貢献」の3軸である。
GreenOps ― 炭素コストという第二の通貨
ESG圧力と社内サステナビリティ目標により、2026年のFinOpsではサステナビリティがコスト最適化と不可分になりつつある。クラウドの排出量(Scope 2および一部のScope 3)がコストKPIと並行して報告されるようになり、「ワークロードあたりの炭素コスト」が標準的な指標になろうとしている。
クラウドにおいて、非効率には2つの代価がある。金銭的な代価と炭素の代価である。アイドルリソースの削減は、コスト削減と排出削減を同時に実現する。2026年対応のFinOpsツールは、GreenOpsを固有の機能として組み込み、サステナビリティメトリクスと最適化機能を提供する必要がある。
FinOpsとクラウドコンピューティングは一過性のトレンドではなく、テクノロジーとビジネスの未来を形作る基盤的要素である。クラウドコスト管理の複雑性が増す中、FinOpsの導入は有益であるだけでなく、不可欠となっている。
FAQ
FinOpsとは何か?
FinOps(Financial Operations)は、エンジニアリング、ファイナンス、ビジネスの各チームが協力してクラウド支出を最適化するための運用モデルである。クラウドの変動費を可視化し、ビジネス価値に基づいて意思決定する実践体系として定義される。
クラウド支出の何%が無駄になっているか?
業界データでは一貫して30〜35%とされている。過剰プロビジョニング、アイドルリソース、不十分な財務ガバナンスが主因である。2026年のパブリッククラウド支出$1.03Tに基づけば、年間$3,000億以上が無駄に消えている計算となる。
AIワークロードのコスト管理はなぜ難しいのか?
GPUインスタンスが通常の5〜10倍のコスト、トークンベースの従量課金、推論時のバースト負荷など、従来のクラウドコスト管理モデルでは追跡が困難な変動要素が多い。63%の組織がAI/MLコスト追跡を開始したが、最適化は未着手の段階である。
参考文献
- The State of FinOps 2026 — FinOps Foundation, 2026年
- The Top 7 Cloud Cost Trends of 2025 (and What to Expect in 2026) — Amnic, 2026年
- Green FinOps: How Cloud Cost Optimization Drives Sustainability — CloudMonitor, 2026年2月
- 10 FinOps tools platform engineers should evaluate for 2026 — PlatformEngineering.org, 2026年
- 49 Cloud Computing Statistics You Need to Know in 2026 — Finout, 2026年



